妊活の知恵倉庫
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前回は虚証の脈象から妊娠した症例でしたが、今回は実証の脈象から妊娠した症例について書いていきます。
まず実証を示す脈を振り返りがてら、妊活時に見られやすい実証の脈について簡単にまとめ、症例に移りたいと思います。
実証の脈
”弦”・”渋”・”滑”などは基本的に実証を示す脈象です。
(実証と言うのは気や血が満ちていて元気!というアホみたいなものではなく、巡りが悪いことを意味します)
これらの脈象に共通することは、脈が流れるための力の強さ(脈気)と脈管の中身(血)は十分にあるものの、その流れを邪魔するものが感じられる脈象ということです。
またそれらの脈象はそれぞれ”弦”は『気』、”渋”は『血』、”滑”は『水』の流れの悪さを表しています。
例えば弦脈が見られたら身体が緊張状態にあるということなので、疎肝理気のお薬を使い、アロマでリラックスし、ヨガやストレッチで身体と頭を柔軟にしていくと良いでしょう。
気・血・水(・精)の中では気は少しの気持ちの変動でも変化を受けやすく、身体の機能面からみても浅い位置にありますが、西洋医学で考えると、気の変動はホルモンの変動に影響してしまうため、浅いからといって”気”の不調も見過ごせません。
また妊活中の方で弦脈が多く見られる理由は、妊活が長引くにつれ頭が常に妊活に縛られている(慢性気鬱)状態になってしまい、それが身体に緊張を生むためです。
このタイプは漢方を出すことでも身体や妊娠力に大きく作用しやすいですが、逆にそれをずっと安定化させるには薬の力よりも心の支えや自分自身の物事の捉え方を変えていくことがより重要になります。
ストレスが極端に強い時は漢方に頼ると良いですが、それ以外では普段からストレスの影響に過敏にならないように心の支えとして妊活カウンセリングをするなどが重要となるでしょう。
こちらに全幅の信頼を置いてくれるようになった方は、ストレスに強くなり弦脈は出なくなり、妊活者自身も妊活に対してのストレスを感じなくなり、今までのツラい妊活に楽しさを見出すことが多いです。
また気のレベルでの巡りの悪さは漢方やカウンセリングですぐに立て直せますが、気鬱状態が長く続くと血や水(リンパ)のより深い巡りへと影響してしまいます。
それがいわゆる”瘀血”や”水毒(湿痰)”と言われるもので、この状態になると妊娠率はより低下し、またそれを自分本来の妊娠力に戻すためにもかなりの時間がかかってしまう身体になってしまいます。
それが血に影響した”瘀血”では『渋脈』を、水に影響した”水毒”では『滑脈』へと発展していきます。
もちろんそれはそんなシンプルに出ることは少なく、身体の深部での異常として沈んだ脈象となったり、気・血・水の流れが悪いために身体にムラを生じ、寸・関・尺位や左右でバラバラな脈象が出たりします。
ですが、弦・渋・滑に見られる実脈は関位を中心に見られ、脈気が伸びずに寸・尺で感じにくいことが多い為、まずは関(中焦)の阻滞を解決することで脈気を通し、他の反応を見ていくことが重要となります。
経血や舌からは瘀血所見が見られなかったK・Kさん
本来は上記に書いたような『瘀血』体質となり子宮に影響した場合、経血には血塊が出たり血の色が鮮血でなく暗色となったり、生理痛が強めに出たり、舌では瘀斑や舌裏静脈怒張が強く出ることが一般的です。
ですが、K・Kさん(36歳)は相談時にはそれらの訴えは全く見られないとのことでした。
しかし、脈を取ると左関~尺位で強い渋脈が触れていました。
そこで、過去の生理の状況を聞いてみると、今は生理痛や血の状態に問題はないが、高校生~社会人になりたての頃は生理痛も強く、質も太い針で刺されるような痛みで、血の塊もレバー状でボロボロ出ていたとのことでした。
今はそういった症状は見られていませんが、脈象からは瘀血の反応が強く出ているため、若い時に見られた瘀血反応は、治ったのではなく感じられないまでに悪化してしまっていると考え、野牡丹製剤を多めに使用してしっかりと活血化瘀を中心に行いました。
すると、服用して1周期目の生理はあまり変化はなかったものの、2周期目では若い時のように血の塊がボロボロと出たとのことでした。
思えば若い時は血の量も多かったとのことで言っていましたが、久々に大量出血で、塊も過去にないくらい大きいものが出たとのことでした。
元々が不安症なKさんですが、この症状に不安が強まるかというとそうでもありませんでした。
なぜかというと、事前に
「きっと昔の処理できていない古い血が悪さをしているから、血を動かすお薬を使うと一時的に塊や生理痛が強まるかもしれないけど、それは悪いものが出た証拠で、良い反応だから気にしないで」
と予見してアドバイスしていたからです。
どちらかというといった通りの出血になったことに驚いたみたいでした。
3周期目の生理も2周期目ほどとはいかないまでも、少し塊が出てはいたようでしたが、生理痛はほとんどなく、血が出た時にスッキリと身体が楽になる感覚があったとのことでした。
4週期目以降は鮮血で塊もほとんどなし、生理痛無し、脈も渋脈は見られず滑≧緩脈で良好。
そこから7ヶ月ほどで妊娠できたので、漢方を飲み始めてからは11ヶ月ほどですが、しっかりと妊娠できました
妊娠中は活血剤を使うわけにもいかないので、婦人宝などで補血しながら血の巡りを助けることをしていきます。
しかし、産後はしっかりと芎帰調血飲第一加減で活血&補血を行わないと、また瘀血生成して2人目不妊にもなりかねないので、産後のケアもしていかなければいけません。
このように、Kさんの場合は脈証以外でも過去の生理の状態も考えることで、妊娠に導く漢方が考えられましたが、1周期目に月経の変化が見られずとも2周期目までしっかりと活血したのは脈の反応を見て、今の生理の状態が仮の状態だと見抜いたためです。
個人的には舌診の方が8.5:1.5くらいで重きを置いていますが、時に舌診には顕著に表れていないこともある症例でした。
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