妊活の知恵倉庫
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来局時のKさん
3人目妊活中での子宝相談の症例です。
1・2人目は問題なく妊娠でき、その後も子供が好きなので2人目の産後も特に避妊などせずに過ごしていたら7年ほど経っても出来ず、妊娠力を上げたい!ということで来局されました。
相談時は36歳、不妊治療で通院するなどはしていず、サプリetcの服用歴はありません。
生理の状態
生理の状態は年々減少傾向にあり、20代の頃よりは半減、血の色は赤黒くまた経血は全体的に粘り気が強く、塊も10円玉大が数個出るとのことでした。
生理痛はもとからそれほど強くなく、気にならない程度。
イライラもしやすいが、生理前などに強くなるわけではなく、常にキッカケがあるとイラっとするが、過剰ではない。
生理前には張ったような頭痛と胸の張り、また下腹部も軽く生理が来そうな張った痛みが出るとのことでした。
帯下(オリモノ)は元々だそうですが、排卵期に特に増えると感じず、いつでもおりものシートが要らないくらいに少ないと思うとのことでした。
基礎体温は測っていません。
不定愁訴
その他の症状で強く出ているものは、左側の臍~みぞおちにかけての動悸、それに伴って胸の中央部の痛み、時に背部痛もあり。
またそれらの原因を探るために血液検査をするとγグロブリン値が高く、確定診断ではないもののシェーグレン症候群の疑いありとのこと。
シェーグレン症候群の症状としては目や口の渇きなどもかなり強いとのことでした。(口内は渇くけれど咽喉は乾かない。)
他にも肌は乾燥しやすく、そのために時折痒みもあり、便秘症状も強く、睡眠の質も悪いなどがありました。
慢性的な鼻づまりや時々痰、また風邪をひくと咳が長引くことも多いとのことでした。
舌
苔は全くなく、舌中央部から左右~縦に亀裂が深くありました。
舌肉は赤味がありましたが、鮮紅や深紅と言うほどでもなく、紅≧淡程度でした。
ただ、舌裏の淵はやや周りより充血色の紅色はみられました。
怒張は細く見られる程度です。
脈
細い脈象で、目や声の力の割に脈力は弱めな印象です。
顔
肌や手は乾燥+で、血虚や陰虚などを考える顔つきです。
顔色はやや白く、目の力は強い為、陰虚があれど、気虚は無い状態です。
聞診
話し方から、せかせかしていてやや焦りやすい性格のようでした。
考察
まずシェーグレン症候群は全身の外分泌腺、つまり体液が分泌する部位に炎症が起こり、潤うべきところが乾燥してしまう症状で、特に目の渇きや口の渇きを代表として、他の多岐症状を引き起こしているものです。
より簡単にいうと潤いを与えられず、渇いてしまうので強いドライアイやドライマウス状態が続く状態です。
現代医学では自己免疫疾患の一つであり、色々と難しく書いていますが、東洋医学では”陰虚”と”火旺”のバランスから考えていきます。
Kさんの場合は目の渇き、口の渇き、オリモノ少量、経血減少、無苔、舌肉の強い裂紋、肌の乾燥、便秘症状から、身体中の潤いが少ない状態にあることが分かると思います。
妊活目線で書くと、乾燥した卵巣は卵に十分な水分が与えられず、膜が乾燥→刺激で壊れやすい状態であり、
また精子が泳ぐ道であるオリモノも少ないことで、精子も卵子に出会うまで泳ぐことが難しく、
仮に受精した場合でも子宮内膜は血の潤いでできていますが、その中の水分が少ないと内膜の質が固くなってしまい、赤ちゃんを育む上で強いストレスとなってしまいます。
何よりも潤いを入れていくべき状態とわかるでしょう。
経血の状態も量が少なく、色が暗く濃く、粘り、血塊がある。
これらは血液中の水分が枯渇している状態とわかるでしょう。
ただの補血でなく、血の中でも潤いを重視した漢方(西洋医学での血の中での”血漿”)を中心とすると良いでしょう。
また、イライラしやすいなどもありますが、これは肝気鬱滞や心火の原因が陰血の虚からきているものですので、安易に柴胡剤を使って乾かさない方が良い例です。
火の勢いが強ければ火を抑えないと乾燥は強まりますが、火の状態は症状にしても舌にしても脈にしても強く見られないので火の考慮はそれほど必要ないと判断しています。
妊娠するまで
妊活が主体であれば腎陰をベースに、あとは補血などを含めた流れでやっていきますが、この方の場合は初めに気にされていた症状は実はみぞおち~臍周囲にかけての動悸、そしてそれに伴う胸や背部の痛みでした。
ですので、腎陰を補っても妊娠力は改善できますが、動悸や痛みは改善しないので、心陰を中心に補う考えで天王補心丹を、また陰虚故に虚陽が浮いてくる状態を緩和するために桂枝加竜骨牡蠣湯も合わせてお出ししました。
服用するとすぐに胸の痛みや背部痛は無くなり、動悸も1週間後には消失したとのことでした。
それからは、妊活の方を主体にしたいとのことで、より深い陰を補うことを考え亀齢寿をベースに、時に麦味地黄丸や知柏地黄丸、六味丸、炙甘草湯なども状態に合わせながらお出ししていると妊娠陽性
第2子出産からは7年も1度も妊娠出来ていなかったのに、3ヶ月ほどで妊娠できたとのことに驚いていました。
また、その後も亀齢寿をベースにした滋陰でもう一度妊娠し、現在継続中です。
まとめ
この方の場合はほぼ誰が見ても明らかな陰虚がありましたが、逆にいうと状態は深く、口渇や目の渇きは多少楽になることはあれど強めに症状が出ていたり、舌の裂紋も緩和はしていますが、まだまだ深く刻まれています。
その大きな原因は、元々の陰虚体質は別として、睡眠時間を削ってしまう生活習慣や、自分に無理して色んなことをしてしまう行動力ゆえ、他に人に比べると陰を常に消耗していたのです。
シェーグレン症候群も、女性に多く、特に更年期周辺に偏って多く見られる症状ですが、これも原始卵胞が尽きて陰虚になることと繋がっています。
ホットフラッシュも同じで、陽気を抑える陰(潤い)が無くなるのでカッカッとし、その熱で煽られて一気に発汗する現象ですが、まだまだ妊娠できる体なのにシェーグレン症状が出てしまっていました。
この体質だと、本来の閉経時よりも早めに閉経し、また更年期症状もより強く出てしまうので、妊活はもちろんこれからの身体の負担を軽減する為にも、そういった体質の場合は陰を補う習慣、特に睡眠を大事にするべきでしょう。
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