
妊活の知恵倉庫
2020-08-19 18:00:00
(この記事は約5分で読めます。難解度★★)
”むくみ”症状をキッカケに妊娠に繋がったHさんの例を書いていきます。
病院では”原因不明”と言われたHさん
私に子宝相談する前にすでに産婦人科に通っており、
そこでは一通り検査をした結果は問題は無く、
クロミフェンやレトロゾールを服用してのタイミング療法で8ヶ月も妊娠できないことで、
問題がないことが逆に「原因不明の不妊」となったことで、不安が強まりご相談に来られました。
問診表の記入を見ても生理痛や生理前後の症状などもほとんどなく、
生理周期や血の状態も塊や血の色、質の状態を伺う限りではそれほど問題ありませんでした。
本当に他のチェック項目は無かったですが、唯一生理3日前から足と下腹部がむくみを感じ始め、
生理中も続くが生理が終わると軽減していくという症状でした。
舌を見ると舌淵の歯痕は強めについており、柔らかい歯痕でなくクッキリとした歯痕で
舌の全体もボテッむくんでパンと張っていました。
舌色もむくみの為か、淡めな色合いで、舌裏は中央部がやや白抜けていて、その静脈が少し張って浮き出ていました。
舌表面についた舌苔の質は、やや厚めで白色で、根はある苔ですが乾燥はせず水分を含む質感でした。
湿痰邪が三焦に詰まっている典型的な舌の状態です。
舌の状態からも「これは湿痰邪が妊娠力を下げている原因だな」と考えられ、
それも張り具合から脾虚などでなく、少陽三焦経のリンパ空間に湿痰が詰まっている実タイプの湿痰がと見られますが、
生理に関わるところでむくみの自覚症状が変わるため、その状態をさらに掘りこんで聞いていきます。
すると、生理前のむくみは起床時も少し浮腫みはあるものの1日の中では1番マシで、
夕方になるほど強まり、押した痕が残るタイプでなく、パンと張った浮腫みとのことで、
生理直前になるとお腹周りもボテッとむくんでくるのかズボンが履きにくいと、
ただの「生理前後のむくみ」という症状から色んな情報を引き出すことができました。
また、生理初日~2日目は生理前よりは改善するものの、まだむくみは続き、
生理4~5日目の後半になるとスッキリしてくるとのことでした。
むくみに伴う重ダルさは感じないとのことです。
またむくみを感じやすい生理3日前~生理3日目ほどまでの間は、小便の回数が減っているような印象とのことでした。
湿痰邪(水毒)体質は卵巣に影響しやすい
ホルモン値・排卵は検査結果では問題ないものの、この体質では卵巣に湿痰邪が蔓延していることが予想されます。
排卵障害はないとのことなので、卵子の質が負担になっていたのでしょう。
その原因は脾・肺・腎などの虚ではなく、生理前以外の時も少陽三焦経に湿痰が詰まり気味ですが、
それが生理前にはより気の鬱滞で顕著になるという状態だと問診や舌の状態で読み取れました。
そこで”柴苓湯”をお出しすると生理前のむくみは改善していき、徐々に舌のむくみも改善していきました。
それと共に、舌の淡さが無くなり綺麗なピンク色になっていき、舌裏の白抜けも軽減、
また舌裏の静脈怒張も薄れ、張りも軽減していきました。
元々生理の血の状態は問題ないとのことでしたが、その内に生理の血がよりサラサラで鮮血色になり、血の量も増えたとのことでした。
つまり、三焦リンパ空間である卵巣の負担も軽減できましたが、
それと同時に湿痰邪を除くことで血流も改善し子宮内膜の状態改善にも繋がったということです。
また、自己排卵は出来ているようだったので、不妊治療でのクロミッドを連用していることは
元々湿痰邪が卵巣に負担をかけていることに輪をかけて卵巣の疲労の蓄積となるので、一時中止を勧めると
クロミッドなしの1周期目は生理周期が伸びて排卵が25日目(クロミッド時は15日目排卵)と遅れていました。
Hさんは生理周期が長くなったことにとても不安を感じていましたが、
「これは今までの疲労の蓄積によるもので、一時休ませて自分の力で排卵できるようになった時に排卵したため
クスリの力に頼っていた時よりも遅れましたが、これからは卵巣への負担が無くなったので大丈夫ですよ」とお伝えしたところ
安心したようで、しっかりと漢方を続ける中でご体調を見ていけました。
すると次の周期は元の29日周期(15日目排卵)に戻り、それからはクロミッドの力が無くても排卵しているのでクロミッドは無しで
こちらの伝えるタイミング指導で続けること7ヶ月目、妊娠陽性に至りました
妊娠中も漢方をしっかり飲んでいただくことで、妊娠後半に出やすい妊娠浮腫(むくみ)の負担もほとんどなく無事出産に至りました。
原因
Hさんの場合のむくみの原因としては、水分を多く摂るというよりは甘い物が好きで、
BMIは20を切るほどで痩せてはいたものの、甘味に湿痰邪がくっついて滞りとなっているようでした。
また、強い精神症状には至らないものの、緊張しやすい性格でもあり、三焦に湿痰邪を溜めやすい体質だったことも一因しています。
三焦領域は広く、湿痰邪は色んな悪者に変化し色々な不都合を生じますが、
この方の場合はむくみと不妊程度の軽いものだったので、逆に目につきにくかったとも思えます。
ですが、しっかりと舌を見て、また身体からの小さなサインであっても見逃さないことが、
命の誕生という奇跡を後押しする形となるのです。
こういった症例は、むくみがある人が全員柴苓湯を飲めば妊娠できる身体になるわけでなく、
水の湿によっては藿香正気散や香砂六君子湯、時にはタンポポ茶のこともありますし、
その人に合った化痰利湿剤を選択することが重要です。
参考までに
前回
前々回
では、むくみの性質からの原因と対策をまとめていますが、
湿痰邪は奥が深くプロでも難しいので、専門家に頼ることをお勧めします。