妊活の知恵倉庫
(この記事は約4分で読めます。難解度★★★)
分かりやすく砕いて書いている内に忘れがちになる東洋医学的解説。
相談業務が多忙なため
最近はブログを書こうと思っても
相談者のことが頭から離れなかったり
相談の隙間を縫って書いていてまとまりがつかなくなっていたように思います。
もっと漢方が普及して皆の妊活に、
そして健康に良い影響が出るように始めたブログですので
久々に東洋医学的な表現と捉え方について説明したいと思います。
今回のテーマは”虚実”です。
虚実とは
言葉の意味は
虚=無いもの
実=実在するもの
ですが
漢方界では
虚=不足
実=過剰
という意味で捉えます。
”虚実”の注意点
一部の間違った考えでは
虚=疲れやすい、身体が弱い
実=体力が充実している
のように「実=充実」
と考える場合がありますがそれは間違いです。
例えば”大柴胡湯”という
気(&火)の滞りが強まり気が結ばれ、
実邪となった病態に使用する漢方薬があります。
邪実の薬ということで日本漢方流では
「体格が良く、体力が充実していて、固太りな人」を目標としていますが
今までの経験上、体力が充実している人よりも疲れている人に出したことの方が多いです。
”疲労”だけを指標としてしまうといけないという例ですね。
注意しましょう。
というか不調を訴えている時点で
疲労を訴えることが無い人はほとんどいないです。
↑のような虚実の表を良く目にしますが
この実証の場合は健康以外の何物でもないのでは?と思ってしまいます。
東洋医学をほとんど知らない医師は
これをベースとしていることが多いでしょう。
そういった意味ではこの虚実を知っているということは
東洋医学を少しでも深く勉強しているかどうかを知る
材料となるかもしれません。
(だいぶ浅いですが、巷の医師はそんな浅いところさえ知っていないという・・・)
満足に食事を食べられない人は
体力が無く不妊や病気になりやすい、
一般的な病人のイメージはこちらでしょう。
つまり一昔前は主に虚=不足なことで
妊娠できない身体であったり、
病気を患っている方が多くいました。
ですが最近は
・酒の飲みすぎ
・タバコの吸い過ぎ
・炭水化物&脂質の摂りすぎ
・塩分の摂りすぎ
などのように
偏ったものを摂取したことでの内臓の弱まり
つまり”実邪”が病因や死因として増えてきています。
また、実=過剰と書きましたが
あり過ぎることが問題でなく、
多かろうが少なかろうが、結果として”滞ること”が問題の本質です。
実=過剰
でも間違いはないですが
実=渋滞、巡りの悪さ
と捉えるようにしましょう。
すると、胸の張りや便秘などの症状は
流れるべき流れが滞っている”実”から来る症状ではないか?
と捉えられるようになると思います。
病人≒虚の時代は終わった?
『病気=身体が弱い人≒虚』のイメージが強いのは
数十年より前の時代は貧富の差が激しく
満足に食事を摂れずに虚となってしまう人は多かったためでしょう。
ですが今はご飯が十分に食べられない時代ではなく
むしろ好きなものを好きなだけ食べられる
”飽食”の時代です。(拒食症などの人を除いて)
その結果
塩分過剰による高血圧
炭水化物&脂肪分過剰による高脂血症
炭水化物摂取過剰による糖尿病
などの”実邪”を根とした疾患が増えています。
妊活においても、一昔前は
満足な栄養が摂れない為に貧血
卵子の成長不足による排卵の遅延
などの虚が中心でありましたが
今では
排卵停滞による多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
内膜排血不良により起こる子宮内膜症
による妊娠率低下が著しいです。
また物理的な”実”だけでなく
ストレス社会と言われるように
身体を使った仕事よりも頭と気を遣う時代ともなりました。
このストレスは時に頭痛、時に胃痛、時に不眠などに影響し
妊活においてはホルモンバランスを乱すことで
月経不順を起こし、不妊の一因となります。
つまり、気・血・水全てにおいて
現代は少し前よりも虚よりも実になりやすい時代となっているというわけです。
・・・と思いきや、実はもっと複雑な身体になりやすくなっています。
それは”虚実錯雑”という、
虚と実が共存するという矛盾した身体です。
虚実錯雑
虚=不足、実=過剰といった
両極端な状態を表現すると
必ずどちらかに偏るように思われがちですが
人の身体は複雑でどちらも同時に存在することもあります。
例えば、身体が虚弱な方は気血が少ない為、
少しのストレスでも気鬱という気の滞りを生んでしまいやすいです。
この場合は体質としてのベースは虚ですが、
ストレスにより生じた気鬱で頭痛を生じれば病因は気鬱という実邪となります。
この場合、気鬱=実ということで先ほど例に挙げた大柴胡湯のような破気剤を使用すると
元々の身体の虚にはしんどいお薬であるため、
気鬱が改善するよりも虚が増大し、より不調は強まります。
ですが、虚だけを補う補中益気湯や十全大補湯などでは
気鬱は改善されず、むしろ気の停滞を強めてしまう場合もあります。
ではどうすれば良いかというと、虚を補いながら気を巡らせる
”逍遙散”を使用していきます。
するとベースの虚をフォローしつつ
一時的な気鬱も改善して不調が整っていくでしょう。
このように虚実が混ざり合うだけでも少し捻りが必要ですが
ここに血瘀や湿痰邪(水毒)や陰虚なども絡むことはザラであり
それら全体を把握することは一つの症状だけでは不可能でしょう。
それを把握するためにどうするかというと
問診で色んな情報を引き出し
舌診や脈診、腹診などで別角度の身体の情報を得て
総合的に考えることが重要なのです。
自分の虚実のことは複雑でわからないと思いますが、
虚弱ばかりが不妊の原因ではないことを知り、
また何でも食べれば良いわけではないと知ることが
新しい命の誕生のキッカケとなればと思います。