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平成堂薬局

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慢性膀胱炎

2022年08月16日

慢性膀胱炎

慢性膀胱炎

抗生剤を服用しても効果が見られない、もしくは一時的に症状が落ち着いても抗生剤の服用を止めると症状がぶり返してしまう膀胱炎を「慢性膀胱炎」と言います。

いずれの場合も細菌が原因であるため抗生剤を連用することが多くなりますが、長期の服用は細菌に耐性ができてしまうこともあります。一般的に膀胱炎に効果のある抗生剤が長期服用できないor効果を得られないことで、不快症状と長く付き合うこともある疾患です。

一般的な治療薬

・雑菌の繁殖を抑える抗生剤

・五淋散

・竜胆瀉肝湯

・猪苓湯(猪苓湯合四物湯)

・清心蓮子飲

・加味逍遙散

・六味丸ベース処方(八味丸・牛車腎気丸・麦味地黄丸・知柏地黄丸)

・免疫力を上げる漢方薬

・湿痰邪を除去する漢方薬

処方解説

抗生剤

抗生剤(抗生物質)は急性膀胱炎には第一選択のお薬ですが、抗生剤で上手くコントロールができない膀胱炎が慢性膀胱炎です。

逆に言うと抗生剤で治る膀胱炎は急性膀胱炎に分類され、慢性膀胱炎ではありません。

五淋散

急性膀胱炎治療に対して使用頻度の高い漢方薬です。

膀胱炎は、漢方では膀胱に“湿熱”という邪が悪さをしていると考えられている病態です。その湿熱を除去することで膀胱炎を治していくというわけです。

湿熱は“湿”という水分代謝を悪化させるワルモノと、“熱”という熱感や炎症症状を生むワルモノに分かれますが、3大膀胱炎漢方薬の中でも五淋散は湿邪と熱邪が半々程度の処方であり、多用されることが多いです。

●構成

山梔子、黄芩、芍薬、甘草、茯苓、当帰、地黄、沢瀉、木通、滑石、車前子

竜胆瀉肝湯

五淋散の解説に書いた湿邪と熱邪のバランスでは、“排尿痛”などの痛みが強い場合や、小便の色が濃く匂いが強いなど、熱邪>湿邪の膀胱炎には竜胆瀉肝湯を使用します。

下焦の湿熱邪に著効するため、膀胱炎に限らず大腸、子宮などの生殖器周辺の炎症症状にも使用します。

元々熱邪に傾きやすい体質の方に使用することが多く、イライラしやすい、のぼせやすいなどの冷えよりも熱感症状を訴えやすい方に使用されることが多い漢方薬です。

竜胆瀉肝湯という名称は同じでも、“一貫堂の竜胆瀉肝湯”と“薛氏医案の竜胆瀉肝湯”の2種の処方構成が存在する珍しい漢方薬です。一般に“薛氏医案の竜胆瀉肝湯”は炎症・熱邪の鎮静化に優れている為、急性膀胱炎にはこちらを使用することが多いです。

“一貫堂の竜胆瀉肝湯”は解毒体質の方に合わせて再構築されたお薬ですので、急性膀胱炎より慢性症状に使用する例が多いです。

●構成(薛氏医案の竜胆瀉肝湯)
竜胆、山梔子、黄芩、木通、沢瀉、車前子、当帰、地黄、甘草

●構成(一貫堂の竜胆瀉肝湯)
竜胆、山梔子、黄芩、木通、沢瀉、車前子、当帰、地黄、甘草、芍薬、川芎、黄連、黄柏、連翹、薄荷、防風

猪苓湯(猪苓湯合四物湯)

湿熱では湿邪>熱邪の膀胱炎に使用します。熱症状は特に強くなく、痛みなどよりも膀胱の不快感や排尿に伴う水分代謝異常の訴えが強い場合に猪苓湯を選択します。

炎症症状が長引くと患部の部分的血虚を招く恐れがあるため、慢性化した場合には猪苓湯に四物湯を混合した猪苓湯合四物湯を使用します。

●構成(猪苓湯)
猪苓、茯苓、沢瀉、滑石、阿膠

●構成(猪苓湯合四物湯)
猪苓、茯苓、沢瀉、滑石、阿膠、当帰、芍薬、川芎、地黄

清心蓮子飲

心身の疲労から心熱・小腸熱を生み、膀胱に影響している膀胱炎に効果的です。
つまり、3大膀胱漢方薬とは違い、湿熱邪にスポットを当てた漢方薬ではありません。

膀胱炎症状に使用されることもありますが、急性症状を抑える効果はほぼ無いため、急性膀胱炎にはあまり使用しません。

この漢方薬は、膀胱炎症状が強い方よりも、膀胱からの不快症状が気になって、不安・パニック・不眠などの神経症状に発展する場合に使用すると効果的です。

例えば外出先でトイレがないなどの環境になると急に膀胱炎用症状が強まる方や、少ししか溜まっていないのに寝る前に小便に行かないと眠れないという場合に良いでしょう。

個人的には、膀胱症状よりも、神経を落ち着かせて膀胱過敏反応を抑えるという考えで使用しています。

●構成

蓮肉、麦門冬、人参、茯苓、車前子、黄耆、甘草、地骨皮、黄芩

加味逍遙散

加味逍遙散も急性膀胱炎の根源である湿熱邪に目を向けた漢方薬ではありません。

熱邪を抑える作用や湿邪を利水するそれぞれの作用は弱いですが、膀胱炎の発症原因が生理周期や更年期に伴うホルモンバランスの影響、またはストレスにより肝火を生じ、それが膀胱炎に影響した場合に使用します。

また、熱邪が強いタイプの膀胱炎に使用する竜胆瀉肝湯は地黄が多く胃への負担も大きい処方で、かつ熱邪を駆逐する為冷やす作用も強めです。

冷え寄りの身体や、胃が元々弱いタイプの方には使用しにくい難点がありますが、この場合に加味逍遙散を代用することで膀胱の炎症を和らげ、虚や冷えに配慮しながら緩和する場合にも使用します。

生理周期毎に膀胱炎を繰り返す人には、発症してからではなく予防的な服用としても優れています。

●構成

山梔子、牡丹皮、柴胡、芍薬、甘草、生姜、茯苓、白朮、当帰、薄荷

六味丸、そしてその加味方

漢方において『膀胱』と『腎』は臓腑では表裏の関係にあり、切っても切れない大事な関係にあります。

そのため、症状を繰り返す、または抗生剤が効かないタイプの”慢性膀胱炎”は『腎の弱り』からきていることが多いため、上記の膀胱”炎”の炎症を抑えるお薬ではなく『腎』を強めることで膀胱の負担を軽減するお薬が効果的です。

その最たる処方例は六味丸。しかし実際の臨床例では六味丸単独ではなく、その骨格を基にした加味方で調整しないと効果が得られない場合が多いです。

・『腎』が冷えて膀胱の不調を生んでいる場合には八味地黄丸

・さらに加齢などの腎虚が強く水分代謝が落ちている場合には八味地黄丸に牛膝と車前子を加味した牛車腎気丸

・腎陰虚をベースにしつつ“虚火”というくすぶった炎症を引き起こしている場合には知柏地黄丸

・腎虚と同時に膀胱粘膜が薄く過敏になっている場合には麦味地黄丸

など、加味方でコントロールしていきます。

個人的には、慢性膀胱炎や間質性膀胱炎の長期的治療において、麦門冬・五味子の入った麦味地黄丸で腎陰を補いつつ、膀胱の表層粘膜を潤わせることが多いです。

また六味丸ベース処方は全てに地黄が配合されており、例によって胃の弱い方は胃もたれなどを生じる場合もあります。地黄の量を調整したり、縮砂の入った香砂六君子湯などで胃の負担もケアしながら服用することが大事でしょう。

●構成

六味丸

地黄、山薬、山茱萸、茯苓、牡丹皮、沢瀉

八味地黄丸

地黄、山薬、山茱萸、茯苓、牡丹皮、沢瀉、附子、桂枝

牛車腎気丸

地黄、山薬、山茱萸、茯苓、牡丹皮、沢瀉、附子、桂枝、車前子、牛膝

知柏地黄丸

地黄、山薬、山茱萸、茯苓、牡丹皮、沢瀉、知母、黄柏

麦味地黄丸

地黄、山薬、山茱萸、茯苓、牡丹皮、沢瀉、麦門冬、五味子

免疫力を上げる漢方薬

慢性膀胱炎は細菌の影響によるものなのに抗生剤が効かないor再発を繰り返すワケは、抗生剤自体に効果が無いということではありません。

勘違いしている人も多いですが、抗生剤は殺菌・消毒のように菌を殺したり消滅させる働きは無く、あくまで『増殖を防ぐこと』が薬効です。

つまり最終的に菌を倒すには、ヒトが外敵と闘う力である“免疫力”が重要であり、“免疫力”が低下していることで慢性膀胱炎になってしまっていることもあるというワケです。

過労などにより免疫力の根源である“気”を消耗している場合には参耆剤である補中益気湯や十全大補溏で“気”を補ったり、漢方での免疫力を指す“衛気”を玉屏風散で補ったり、衛営不和には桂枝湯などで対応します。ですが理屈と臨床ではなかなか乖離が激しい分野であり、即膀胱炎の不快症状に反映されるわけでもないので、根気が必要です。ですが、根本から解決する場合に考慮しておかなければいけない問題です。

●構成

補中益気湯
人参、蒼朮、黄耆、当帰、陳 皮、大棗、柴胡、甘草、生姜、升麻

十全大補湯
桂皮、黄耆、人参、白朮、茯苓、甘草、当帰、川芎、芍薬、地黄

玉屏風散
黄耆、白朮、防風

桂枝湯
桂枝、芍薬、甘草、生姜、大棗

湿痰邪を去る漢方薬

体内に『湿痰邪』が存在するということは、カラダの中が水で汚れた部分があるということです。
カビなども高湿度環境を好み繁殖するように、膀胱炎を起こす細菌も体内にある水の汚れを好みます。

免疫力が高くても湿痰邪を抱えていると、結果的には細菌感染症状を繰り返しやすい体質となってしまいます。

特には胃腸が湿痰生成の始まりと言われるため、その原因から駆逐するために六君子湯や香砂六君子湯、加味平胃散などを使用していきます。すでに湿痰邪が三焦(身体中のリンパ)に蔓延している場合には、柴苓湯や藿香正気湯を使用します。

●構成
六君子湯
人参、朮、茯苓、半夏、陳皮、大棗、甘草、生姜

香砂六君子湯
人参、朮、茯苓、半夏、陳皮、大棗、甘草、生姜、縮砂、香附子、藿香

柴苓湯
柴胡、半夏、黄芩、人参、生姜、甘草、大棗、桂枝、朮、茯苓、猪苓、沢瀉

藿香正気散
藿香、厚朴、紫蘇葉、白芷、半夏、桔梗、茯苓、白朮、陳皮、大腹皮、乾生姜、大棗、甘草


≪まとめ≫
慢性膀胱炎の場合、症状が強い場合は標治を率先し、急性膀胱炎に多用する五淋散、猪苓湯、竜胆瀉肝湯を軸と考えて処置することから始めます。しかし、それらで症状の緩和があったとしても、それらの薬を止めると再発してしまうのが『慢性膀胱炎』です。

そのため、症状が安定してきたら同じ処方ベースを続けるのではなく、慢性症状を起こす原因解消(本治)にシフトしてきます。

心的負担が熱を生み膀胱に影響しているのか、ホルモンバランスやストレスの影響で熱を生んでいるのか、腎虚によるものなのか、免疫力低下によるものなのか、湿痰邪によるものなのか。
また、慢性症状は患部周辺に常に炎症が生じていることで周りの血行環境にも影響し、つまり患部周辺の瘀血を生成し、さらに瘀血や慢性炎症は部分的な陰虚へと発展してきます。過去には有効であったお薬が効かなくなる原因はここにあり、長引くほど患部瘀血や陰虚にも配慮する必要があります。

陰虚が進んでしまうと、『慢性膀胱炎』→『間質性膀胱炎』に発展してしまうことがあり、『間質性膀胱炎』では炎症が起こっていなくても膀胱炎様症状が感じてしまうというより難治疾患となってしまいます。

同じ膀胱炎でも漢方による対応は全く違うので、下記の関連疾患を参考にしてください。

関連疾患

・急性膀胱炎・腎盂腎炎(腎盂炎)

・間質性膀胱炎

・過活動膀胱

・前立腺炎、前立腺肥大


※各疾患別考察ページは、臨床経験と共に追記、または一部内容を変更することがあります。

歴史の長い医学・医術である漢方は、西洋薬のように新しい薬が開発されることはありません。しかし、臨床の場数を踏む中で、参考にする所見部位や各疾患に対しての考え方を変えざるを得ない現実に。書籍・講義等で得られる情報が、必ずしも実際の臨床の場で体験したことと一致しないことがあるためです。

ヒトも漢方も生きています。つまりヒトも漢方も進化しているワケで、昔の理論を吸収し、乗り越えるという意味で、内容が変わってしまうこともありますが、ご了承ください。