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処方解釈〈補中益気湯〉①

2026年03月11日

漢方薬の中では「風邪のひき始めには“葛根湯”」という言葉はかなり有名で、漢方薬の中でも葛根湯だけは飲んだことあるという人も多いように日本一有名な漢方薬と言えば葛根湯でしょう。

そんな葛根湯の実際は風邪だけではなく肩こりや頭痛、アトピー性皮膚炎などにも応用されることもあり、体質に応じ日常服用をされている方もいるにはいますが、基本的に葛根湯を日常服用している人は少ないでしょう。

そういう意味で日常的に飲まれている漢方薬で日本一多いものは補中益気湯ではないかと思い、まず一番に解釈をまとめさせていただきます。(五苓散や当帰芍薬散、加味逍遙散も、桂枝茯苓丸辺りがTOP5でしょうか。)

〈なぜ補中益気湯はよく飲まれているのか〉

補中益気湯の服用理由の第一位は疲労・倦怠感に対しての処方でしょう。それだけ現代人は疲れを感じている人が多いということなのかもしれません。ですが、補中益気湯を飲んでもそれほど効果を感じない人もいます。疲れているのになぜ効果が見られないのか。また、似たような処方に六君子湯や十全大補湯などもありますが、どこが違うのか、そしてその使い分けはどうなのか、まとめていきます。


〈構成から考える補中益気湯〉
構成:人参(ニンジン)・白朮(ビャクジュツ)・黄耆(オウギ)・当帰(トウキ)・大棗(タイソウ)・柴胡(サイコ)・陳皮(チンピ)・甘草(カンゾウ)・生姜(ショウキョウ)・升麻(ショウマ)

まず、人参・黄耆の2種が配合された漢方処方を参耆剤といい、この人参黄耆は『脾の気津』を補う効果があります。

脾の気津とは、“気”はこの場合元気エネルギーと考えると良いでしょう。気ばかりが注目されがちですが、実は”津”も重要だと考えています。そもそも”津”とはなんぞや?という人がほとんどだと思いますが、“津”とは体内の潤いです。その中でも粘性なもので”液”というものもありますが、対してサラサラとした潤いを”津”と漢方では読んでいるわけです。

人間でいうところの脱水状態だと生命活動が低下してしまうように、脾はエネルギーだけでなく適度な潤いも無いと機能が低下してしまいます。それを補うものが“参耆剤”であり、その代表が補中益気湯です。過活動した際に糖質などのエネルギー源を摂り回復することはもちろんですが、それと合わせて水分補給することも大切ですね。それらの吸収力を高める機能がある訳です。

さらに白朮も気を補う効果がありますが、人参・黄耆とは違い、汚れた潤いとなってしまった“湿邪”を除去する働きも有します。

潤いは潤いやろ?と思う人もいるようですが、ペットボトルの封を開けたばかりの水と口をつけてから1日以上経った水、もしくは地面に溜まった雨水は同じように飲めるでしょうか?見た目はきれいでも、中には雑菌が繁殖している場合もあるなど、同じ水・潤いでも身体にとっては良い潤いもあれば邪となる潤いもある訳です。

そのため、人は1日1~2リットル以上水分を摂取しますが、その分排泄し、新陳代謝することで身体を健康な状態に維持しています。

脾(胃腸)は水・潤いにデリケートな臓腑であるため、悪い・古い水を排出し、良い・新しい水を取り込む漢方薬を使うことで消化吸収機能が回復するわけです。疲労の原因がそうした汚れた水、ということもある訳です。

大棗・甘草・生姜は色んな処方で一緒に配合されることも多いですが、簡単な考えでは色々な生薬全般の調和を図ることと、そしてこれら自体も胃腸の元気を補い、またお腹を温め、余計な水分を除去する働きがあります。大棗は気を補うという説明が多いように思いますが、個人的には鉄分を補うなどの補血効果や安神効果の方が重要に思います。それについては長くなるのでそれは生薬解説する時に書こうと思います。

升麻は「升」という字にあるように昇る、つまり上向きベクトルに力を向かせる働きがあります。また、黄耆と微量の柴胡を合わせることで昇発作用が強まります。

この昇発作用も色んな補気剤がある中でも補中益気湯が補中益気湯である大切な要素です。例えば胃下垂や子宮下垂などの臓腑の下垂症状を持ち上げる効果があり、痔に使用されることもあります。また、低血圧で朝起きにくい人や起立性調節障害の人に対し、血を上の方向、つまり頭に巡らせる働きを求め処方することもあります。

起立性調節障害に使用することはありますが、明らかに脾気虚や気の落ち込みからではなく、気の鬱滞による人には向きません。当薬局でも相談件数の多い十代の子が朝起きれないという起立性調節障害は体と神経の成長バランスが合っていないためにおこることであり、補中益気湯が当てはまる場合はかなり少ないと経験していますので、注意しましょう。

柴胡は升麻のところに少し書きましたが、補中益気湯の場合は昇発作用目的を中心に配合されています。そのため、通常の柴胡の使用に比べ分量はかなり少ないです。柴胡は多くの場合、「疎肝」という肝の働きをほぐすことを主目的として使用する場合が多いのですが、疎肝作用を強めすぎると気を消耗する傾向にあるため、補中益気湯の本来の働きと考えが逆行してしまうように思う人もいるかもしれません。私も初めあまり知識のない頃はなぜ気を補うはずの補中益気湯に柴胡が入っているのか、気を補い、補った気を動かすキッカケ作りのためかと思っていたこともありましたが、やはり升麻・黄耆との組み合わせで気を持ち上げる作用のためが主目的であると考えた方が良いと思います。

そして最後に当帰。補中益気湯は補気が主な薬効ですが、気と血は持ちつ持たれつであり、気の消耗は血の消耗を生み、血の消耗も気の消耗を生むため、当帰により血を生む助けを行うことで、血を補うだけでなく補気作用も相乗的に上がるという目的で配合されています。また、当帰も柔肝作用により肝は上達を好む面からも当帰も昇発作用の一端を担っています。

また、人参は高麗人参などで有名であり、それ自体が疲労倦怠感に使用することでも有名ですが、冷えに対しても効果を謳っていることが多く見受けられます。ですが本来人参は温める効果自体は実はなく、脾や身体を元気にすることで結果として熱エネルギーを補うことで身体が温まったと感じる人はいるでしょう。

人参以外の生薬も温性はあまりなく、むしろ平性~微寒性があるものもあり、基本的に服用により身体から余計な熱を除去するお薬です。気を補う、エネルギーを補うというイメージからは温めることを想像している人も多かったかもしれませんね。ただ、この場合の熱を除去する働きとは何なのでしょうか。

その真意は、体の深部から表側に熱邪を浮かせて除去することです。といっても単純なのぼせや発熱症状に使用することは少なく、疲労により興奮している状態を“熱”捉え、それを緩和するという考えです。

徹夜などで寝不足の時、眠いはずなのに頭は変に興奮して落ち着きが無くなっているような状態です。もしくは疲れすぎて火照ってきたり、口が渇く場合などがそうした熱であり、補中益気湯で除去できる熱です。感染症後期で体力を虚損していて気管支炎や肺炎になってしまった場合の肺の部分的な熱にも良いでしょう。

では補中益気湯は冷え寄りの人が飲んではいけないということはありません。人参の例に書いたように、薬効としては冷え寄りの効果をもたらしますが、脾胃が疲れ疲れて体温低下傾向にあった場合、補中益気湯の脾胃気虚緩和からエネルギー産生率が上がり、熱エネルギーももちろん上がるため体温が正常に上昇することもあります。

生薬構成からの考察は以上ですが、類似構成方剤との鑑別や補中益気湯という処方名の由来などからの考察は次回に続きます。