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慢性膀胱炎・間質性膀胱炎の原因と治療考察
2026年03月17日
の続きです。

慢性膀胱炎・間質性膀胱炎はどちらも膀胱粘膜に炎症を生じてしまっている疾患です。その原因は、慢性膀胱炎は細菌感染であり、間質性膀胱炎は未だ原因がわかっておりません。ただそれは西洋医学的な考察と治療法が確立されていないということですが、漢方による考察である“弁証”を介することで得た臨床経験をまとめていきます。
〈「湿熱」から「痰熱」、そして「瘀血」、「陰虚」の生成〉
頻尿や排尿痛を生じている状態を漢方では「淋証(りんしょう)」と言います。この「淋証」の原因のほとんどが「湿熱」に属しており、急性膀胱炎の多くは抗生物質でも改善しますが、漢方薬により湿熱を除去することでも治癒できます。
しかし慢性膀胱炎や間質性膀胱炎では「湿熱」から“湿邪”の状態が深い“痰邪”になったり、炎症が常態化することにより「瘀血」「陰虚」「気虚」を生み、複雑化していきます。
慢性膀胱炎と間質性膀胱炎はどちらも膀胱に難治性の炎症を生じてしまっていますが、違いは細菌感染が見られるかどうかです。それを漢方的に考えると、先に書いた湿熱や痰熱があると、細菌が繁殖しやすく、抗生物質で効果が見られても最近の巣窟が除去されていない場合は再発しやすく、もしくは巣窟が複雑になっている場合は抗生物質の効果も乏しくなります。もしくは、湿熱・痰熱環境とは別に、尿路~膀胱の部分的気虚により細菌に対しての免疫力が低下していて繰り返して今う場合もあります。
一方間質性膀胱炎の場合、細菌の増殖は見られないため、細菌が育みやすい湿熱・痰熱環境があるのではなく、陰虚・気虚の側面から虚火を生じ、炎症症状として発現してしまっていると考えています。また、細菌感染は生じていないものの湿熱・痰熱・瘀熱が膀胱に発生し、それが炎症として膀胱炎症状を生じていることもあります。
また、間質性膀胱炎の方は初めから間質性膀胱炎になってしまっているというより急性膀胱炎を数回繰り返したり慢性膀胱炎となった後に細菌感染が見られないものの、膀胱炎症状のみ残っている方もいます。繰り返す炎症症状により、膀胱粘膜が薄くなってしまい、膀胱粘膜のの部分的な「陰虚」を生んでしまうためです。
そして、炎症は患部に充血を起こしている状態です。そうした充血状態が慢性化してしまうとその部分は血行障害、つまり“瘀血”を生んでしまいます。血が巡りにくくなるということは、本来人が持っている治癒する力もそこに伝わらなくなってしまいます。
膀胱粘膜が薄くなり膀胱患部への血行が悪化してしまうと、炎症を治そうとする力も衰えてしまいます。これが部分的な“気虚”となり、自分で身体を治すことができなくなってしまいます。
言葉で書くと簡単に思えますが、これらはとても複雑です。炎症が強い時に血行改善を促すと、炎症は充血している状態なので、充血しているところにより血が集まり炎症が悪化してしまうことがあります。
逆に炎症を抑えるお薬のタイミングを誤ると、血管が収縮し、血行不良を起こし、治癒力低下につながる可能性があります。
つまり、抗炎症も血行改善のどちらも状況に結構と炎症のバランスに随時合わせ、段階を踏んで調整することが重要となります。それは同じ症状を訴える方だとしても同じ方剤や同じ期間だけ同じことをしたら良いわけではなく、状況判断しその都度調整することが重要となります。
膀胱は尿という水分を溜めこんだり排出するなど、柔軟性に富んだ働きを求められる臓器です。ストレッチした際に痛みを感じる方と感じない方がいるように、筋肉が軟らかく血流が良い方が柔軟性に富んでいます。膀胱も同じで、膀胱の筋肉やそれに付随する毛細血管が柔軟性を左右します。膀胱が硬くなってしまうと、思う収縮拡張できず、急な尿意を生んだり尿のキレが悪くなったり、残尿感を生んでしまいます。そうした中で雑菌も溜まりやすくなり雑菌繁殖に繋がるなど、慢性膀胱炎・間質性膀胱炎を生じやすい土台形成に繋がってしまいます。
このような血行障害(瘀血)を起こす要素には、下腹部の冷えや慢性的な疲労、出産、腹部の手術などが挙げられます。また小便の排出に関わる筋肉は肝(自律神経)でコントロールされています。つまり肝の働きが悪い状態が長く続いてしますと、膀胱の筋肉収縮活動が悪化し、結果として瘀血を生じてしまいます。
〈“瘀血”を除去し、血行改善する〉
瘀血には“駆瘀血剤”です。ただし、瘀血にも気との結びつきが強く気滞を伴うものや血虚性のもの、瘀血に熱を生じているものや冷え由来の瘀血などがあり、状況に応じた駆瘀血剤を選択する必要があります。方剤例で挙げた大黄牡丹皮湯や腸癰湯、芎帰調血飲第一加減などを使うことが多いですが、それ以外にも桂枝茯苓丸や折衝飲、環元清血飲(活血剤として)などを使用することもあります。
これらは直接膀胱炎の適応がある訳ではありませんが、膀胱の毛細血管において血行障害を生じていることが膀胱の治癒力低下に繋がっており、膀胱炎に対しての薬効を届かせることや血行改善により自己治癒力をあげる目的で使用しています。これは慢性膀胱炎や間質性膀胱炎に限らず、症状が頑固になってしまった(難治性)慢性疾患すべてに言えることです。
〈“冷え”を除去し、腎・膀胱の働きを高める〉
膀胱炎自体は炎症を生じているので、熱を伴いますが、それは部分的であり、根本原因には“冷え”があることがとても多いです。
寒さを感じると急に尿意を催してしまう経験は誰でもあるでしょう。特に下半身や腎付近の腰辺りが冷えると、腎~膀胱の血管が収縮することで小便を出すことで身体から冷えを追い出すように体が働きかけます。ですので、以前は冬に訴えが多かったのですが、昨今は冷房で冷えた人や暑い夏に冷たい飲食物を多く摂ることで発症する方も増えています。ですので、自覚として「冷えが原因」と感じることが少なくなっている側面もあります。
根本原因が冷えなのであれば温めれば解決です。苓姜朮甘湯や当帰四逆加呉茱萸生姜湯、芎帰調血飲第一加減、八味地黄丸、牛車腎気丸などが主に使用されます。ですが先に書いたように、やはり膀胱炎は少なからず炎症を生じているわけで、温めすぎや温め方を誤ると炎症症状が強まってしまう場合もあります。
一般に腰痛なども、痛みがあるときに冷湿布を使う時も温湿布を使う時もありますね。そのように、炎症自体を抑えたい時は冷やし、血行障害を治したい時は温めることが基本です。といってもその判断は素人ではなかなか難しいように、膀胱炎に対しての温め方はより複雑です。冷えているから温める、炎症があるから冷やすというほど単純ではないです。また、漢方薬が多種な生薬から構成されていることや冷やす生薬と温める生薬が混在されている理由もここにあります。
〈膀胱の伸縮性を高める〉
膀胱は尿を溜め込むときは伸び、排出する時は縮みますが、その伸縮は自律神経によってコントロールされています。緊張した時に常にトイレが近く、なのに上手く膀胱に力が入らずスッキリ出ないという経験はわりと身近な症状です。その状態が続くことも膀胱炎の発症原因となり得ます。
というより、臨床経験を通して一番の原因になっているのはこの自律神経の膀胱調整機能失調によるところが一番多いと体感しています。なぜかというと、慢性膀胱炎・間質性膀胱炎の相談者の方々はほとんどが神経質な性格の方ばかりです。常に神経を張っていて、気を緊張させてしまっています。
それが膀胱の伸びやかさや膀胱の毛細血管血流も滞らせてしまい、膀胱炎になる前からそうなる土台を作ってしまっている背景があると捉えています。ですので、細菌感染のように急迫な原因を生じた際はその原因を取り除くことですぐに回復できますが、膀胱炎に悩む前から長い時間をかけて作られた土台を治していくという作業はどうしても時間がかかってしまいます。
しかも、膀胱の調子が良い時は良いですが、仕事や私生活でストレスを生じた時やホルモンバランスの変化を生じた際なども少しの肝の不調が膀胱に反映されやすく、一度悪くなってしまうと心理的負担が悪循環を生み、なかなかまた改善に時間がかかってしまうということも良くあります。
そうした性格も伴う不調には逍遙散や四逆散、大柴胡湯、柴胡疎肝湯などの柴胡剤を使用することが多いです。
また、漢方薬だけではなく、横隔膜を広げるように深呼吸したり背を伸ばしたり、全身的なストレッチなどもおススメしています。気持ちが鬱滞しやすい場合、ストレッチや運動により発散することが気持ちの負担の軽減はもちろん、血行改善作用も膀胱に良い効果をもたらすことも多いです。
例えば運動している最中にそれほど強い尿意に襲われることが少ないように(ずっと我慢していれば尿意は感じますが)、また、緊張している時は尿意が強かったものの、小便に行かずとも緊張がほぐれると尿意が薄らぐように、必ずしも膀胱炎のお薬を使用せず、緊張をほぐすことで膀胱炎の不快症状が改善されることも多くあります。
ただ、上に挙げた柴胡剤、また駆瘀血もですが、長期に使用していくと陰虚の原因となり、陰虚が膀胱を弱らせることもあるので、都度補血や滋陰、補気などをすることも大切です。
〈長引く膀胱炎の陰虚・気虚〉
運動して疲れた時、上手く力が入らなくなったことはないでしょうか。ですが休憩を取ったり、一晩でも休めばほとんどの場合は回復してまた力が入るようになります。疲れが溜まった場合は休むと回復する、当たり前のことですね。
しかし、慢性膀胱炎・間質性膀胱炎の場合、膀胱不快症状により通常より頻繁に膀胱筋肉を伸縮させてしまう傾向にあります。さらに炎症があることで膀胱が休まることもあまりできていません。つまり膀胱が休むこともあまりできず、そのために炎症から回復する力も落ち、さらに炎症が続き、休めないという悪循環となってしまいます。
これが長い期間続くと、膀胱の部分的老化(陰虚)を生んでしまいます。高齢者が頻尿や尿ギレが悪く、残尿感症状等が出やすくなりますが、これは膀胱筋肉の衰退により生じます。慢性的な炎症症状は年齢はまだ若くても、膀胱の部分的老化症状を生じてしまう可能性があるということです。
漢方では、疲労状態は“気虚”にあたり、老化状態は“陰虚”にあたります。それぞれ補気剤や滋陰剤を使用することで緩和していきます。気虚には一般的な補中益気湯を使うこともありますが、個人的には慢性膀胱炎や間質性膀胱炎には参苓白朮散で同じように補気を補いながら脾陰虚も補うことで間接的に腎や膀胱の陰虚の回復に向けることが多いです。もしくは黄耆建中湯や帰耆建中湯で陰陽の器を広げる場合が有効なこともあります。
清心蓮子飲も補気や滋陰作用がありながら、利水・利尿と精神安定作用により悩みの多い慢性膀胱炎・間質性膀胱炎に向いた処方のように思いますが、実際のところ単独での薬効は今一つだと感じています。状況に合わせ他の方剤と組み合わせることが大切でしょう。
このように、病名では“慢性膀胱炎”・“間質性膀胱炎”ですが、単なる膀胱炎に対しての漢方薬でもあまり効果が見られないように、「炎症と血行障害のバランス」や「精神的負担と膀胱不快症状の悪循環」、「膀胱治癒力低下の悪循環」などはその人により複雑な状態であるため難治性疾患なのでしょう。
漢方薬ではそれらの状態を考慮して状況に応じた調整を行い、まずはQOLの改善、そして少しずつ慢性的な症状が治まるようにお手伝いしております。こちらでも簡単ではありませんが、これまでもそうして良くなった方々はおられますので、慢性膀胱炎・間質性膀胱炎でお悩みの方はご相談ください。
ただし、時にご症状に波が出てしまうこともあり根気強い治療になります。ですが、放っておくとどんどんひどくなり精神的負担が強まってしまうため、お早めのご相談をお勧めいたします。
