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急性膀胱炎・腎盂腎炎(腎盂炎)
2023年09月07日
雑菌が膀胱内に侵入して炎症を生じる疾患を「膀胱炎」と言います。
尿道口が膣や肛門と近いことや、尿道が短いことから女性に多く見られる疾患で、水分不足時、カラダが冷えた時、小便をガマンした時など、少しのキッカケで発症することもあり、女性であれば一生に一度は発症すると言われるほど身近な疾患です。
主な症状には『排尿痛』、『頻尿』、『残尿感』などがあり、雑菌が多いと小便の色の異常や異臭、血尿症状を生じることもあります。
一般的に見られやすい疾患ですが、雑菌の繁殖が腎臓にまで広がると「腎盂腎炎」に発展し、それが「敗血症」や「慢性腎不全」に繋がる可能性もあります。
≪一般的な治療薬≫
・抗生剤(西洋薬)
・五淋散
・竜胆瀉肝湯
・猪苓湯(猪苓湯合四物湯)
・清心蓮子飲
・加味逍遙散
・六味丸、または六味丸ベース処方
≪処方解説≫
抗生剤
細菌感染による膀胱炎には一番効果的です。
急性膀胱炎には著効する反面、むやみに抗生剤を使用すると耐性菌が出来てしまう可能性もあります。そのため、市販で売られていず、処方箋を必要とするお薬です。
抗生剤は細菌を殺すのではなくあくまで繁殖・増殖を防ぐお薬ですので、急性膀胱炎は早めの対応が必要なのですが、処方箋でないと手に入れられない際は市販でも手に入る以下の漢方薬を使用すると良いでしょう。
五淋散
急性膀胱炎治療に対して使用頻度の高い漢方薬です。(市販薬や病院処方での話で、当薬局で使用頻度が一番ということではありません)
膀胱炎は、漢方では膀胱に“湿熱”という邪が悪さをしていると考えられている病態です。その湿熱を除去することで膀胱炎を治していくというわけです。
湿熱は“湿”という水分代謝を悪化させるワルモノと、“熱”という熱感や炎症症状を生むワルモノに分かれますが、3大膀胱炎漢方薬の中でも五淋散は湿邪と熱邪が半々程度に処置をする処方構成であることが多用される所以でしょう。
●構成
山梔子、黄芩、芍薬、甘草、茯苓、当帰、地黄、沢瀉、木通、滑石、車前子
竜胆瀉肝湯
五淋散の解説に書いた湿邪と熱邪のバランスでは、排尿痛などの”痛み”が強い場合や、小便の色が濃く匂いが強いなど、炎症症状が強い急性膀胱炎に使用します。
熱邪>湿邪の膀胱炎には竜胆瀉肝湯を使用します。
下焦の湿熱邪に著効するため、膀胱炎に限らず大腸、子宮などの生殖器周辺の炎症症状にも使用します。
元々熱邪に傾きやすい体質の方に使用することが多く、イライラしやすい、のぼせやすいなどの冷えよりも熱感症状を訴えやすい方に使用されることが多い漢方薬です。
竜胆瀉肝湯という名称は同じでも、“一貫堂の竜胆瀉肝湯”と“薛氏医案の竜胆瀉肝湯”の2種の処方構成が存在する珍しい漢方薬です。一般に“薛氏医案の竜胆瀉肝湯”は炎症・熱邪の鎮静化に優れている為、急性膀胱炎にはこちらを使用することが多いです。
“一貫堂の竜胆瀉肝湯”は解毒体質の方に合わせて再構築されたお薬ですので、急性膀胱炎より慢性症状に使用する例が多いです。
●構成(薛氏医案の竜胆瀉肝湯)
竜胆、山梔子、黄芩、木通、沢瀉、車前子、当帰、地黄、甘草
●構成(一貫堂の竜胆瀉肝湯)
竜胆、山梔子、黄芩、木通、沢瀉、車前子、当帰、地黄、甘草、芍薬、川芎、黄連、黄柏、連翹、薄荷、防風
猪苓湯、猪苓湯合四物湯
湿熱では湿邪>熱邪の膀胱炎に使用します。熱症状は特に強くなく、痛みなどよりも膀胱の不快感や排尿に伴う水分代謝異常の訴えが強い場合に猪苓湯を選択します。
炎症症状が長引くと患部の部分的血虚を招く恐れがあるため、慢性化した場合には猪苓湯に四物湯を混合した猪苓湯合四物湯が重宝されます。
●構成(猪苓湯)
猪苓、茯苓、沢瀉、滑石、阿膠
●構成(猪苓湯合四物湯)
猪苓、茯苓、沢瀉、滑石、阿膠、当帰、芍薬、川芎、地黄
清心蓮子飲
心身の疲労から心熱・小腸熱を生み、膀胱に影響している膀胱炎に効果的です。膀胱炎症状に使用されることもありますが、急性症状を抑える効果はほぼ無いため、急性膀胱炎にはあまり使用しません。
この漢方薬は、膀胱炎症状が強い方よりも、膀胱からの不快症状が気になって、不安・パニック・不眠などの神経症状に発展する場合に使用すると効果的です。例えば外出先でトイレがないなどの環境になると急に膀胱炎用症状が強まる方や、少ししか溜まっていないのに寝る前に小便に行かないと眠れないという場合に良いでしょう。
個人的には、膀胱症状よりも、神経を落ち着かせて膀胱過敏反応を抑えるという考えで使用しています。
●構成
蓮肉、麦門冬、人参、茯苓、車前子、黄耆、甘草、地骨皮、黄芩
加味逍遙散
熱邪を抑える作用や湿邪を利水するそれぞれの作用は弱いですが、膀胱炎の発症原因が生理周期や更年期に伴うホルモンバランスの影響、またはストレスにより肝火を生じ、それが膀胱炎に影響した場合に使用します。
竜胆瀉肝湯は地黄が多く胃への負担も大きい処方で、かつ虚証には強い漢方薬でもあります。
加味逍遙散は虚を補いつつ、膀胱の炎症を和らげる効果もあるため、使用する機会は多くないながらも時々上記の処方よりも体質に合う場合があります。
生理周期毎に膀胱炎を繰り返す人には、発症してからではなく予防的な服用としても優れています。
●構成
山梔子、牡丹皮、柴胡、芍薬、甘草、生姜、茯苓、白朮、当帰、薄荷
六味地黄丸、八味地黄丸etc
漢方において『膀胱』と『腎』は臓腑では表裏の関係にあります。
そのため、膀胱の不調は腎の不調や腎の水分代謝異常に基づくこともあり、膀胱炎に使用する場合もありますが、急性膀胱炎のように一時的な症状には基本的に用いません。
慢性膀胱炎や間質性膀胱炎などのように症状を繰り返したり、改善が見られない場合にはこれらのお薬を使用することもあります。
●構成(六味丸の基本骨格。これをベースにした加味方は多い)
地黄、山薬、山茱萸、茯苓、牡丹皮、沢瀉
≪まとめ≫
ほとんどの急性膀胱炎は、抗生剤や五淋散・竜胆瀉肝湯・猪苓湯で緩和します。
しかし、繰り返し膀胱炎症状を引き起こしたり、抗生剤が効かないタイプの『慢性膀胱炎』や、原因が感染症でない『間質性膀胱炎』は難治性で、上記のテンプレート漢方薬ではコントロールできない場合がほとんどです。
同じ膀胱炎でも漢方による対応は全く違うので、下記の関連疾患を参考にしてください。
関連疾患
・慢性膀胱炎
・間質性膀胱炎
・過活動膀胱
・前立腺炎、前立腺肥大
※各疾患別考察ページは、臨床経験と共に追記、または一部内容を変更することがあります。
歴史の長い医学・医術である漢方は、西洋薬のように新しい薬が開発されることはありません。しかし、臨床の場数を踏む中で、参考にする所見部位や各疾患に対しての考え方を変えざるを得ない現実に。書籍・講義等で得られる情報が、必ずしも実際の臨床の場で体験したことと一致しないことがあるためです。
ヒトは生き物であり、漢方も生きものだと思っています。つまりヒトも漢方も進化しているワケで、昔の理論を吸収し、乗り越えるという意味で、内容が変わってしまうこともありますが、ご了承ください。